コーポレート・ファイナンスの面でそーせいの右に出るバイオテック企業の存在を私は知りません。
これはバイオテック企業の中でもそーせいが安定的に収益を計上しているが故ですが、2019年に新規コミットメントライン契約を締結した実績は素晴らしいの一言です。
そして2021年7月7日には2026年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債を発行することを報告しており、コーポレート・ファイナンスに対する積極的な姿勢を継続しています。

2026年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債(総額300億円)によって得られる資金の用途は「2025年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の買入れ(総額160億円)」および「戦略的成長投資」の2点です。
2025年満期新株予約権付社債の買入れは同報告書で以下の通り示しています。
・2025年満期新株予約権付社債の買入れによって見込まれるメリット(「2026年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ」抜粋)
『①本新株予約権付社債発行による調達資金を、本買入消却による2025年満期新株予約権付社債(既発)の買入資金に充当することで、資金調達コストを低減しつつ負債の長期化を図れること
② 2025年満期新株予約権付社債(既発)よりも転換価額が高くなり得る本新株予約権付社債による調達資金を、本買入消却による2025年満期新株予約権付社債(既発)の買入れ資金に充当することで、各社債あたりの潜在希薄化を抑制できる可能性が高いこと
③本新株予約権付社債の発行に関する投資家の需要を拡大し、良好な条件での本新株予約権付社債の発行が見込まれること』
これらを上から順に説明すると、資金調達コストは年利0.50%から同0.25%へと低下し、支払い利息の総額は404百万から376百万円へと社債総額が140億円も増加しているにも関わらず、約30百万円の支払利息を低減することに成功しました。
しかし、総額160億円の2025年満期新株予約権付社債の買入れに192億円の費用が発生しているため、キャッシュフローの観点では約30億円のマイナスであり、支払利息低減と償還期限の1年の延長(2025年7月16日から2026年7月27日)では割に合いません。
そこから、2026年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行の目的は株式転換を封じることに主眼があり、転換社債型新株予約権付社債と謳ってはいるものの、そーせいは大前提として2025年満期新株予約権付社債において株式転換を債権者に行わせるつもりがないことが透けて見えます。
そもそも、2025年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債のアップ率15%は同時に行われた新規株式発行の募集価格1,595円を基に計算されているものであり、算定基準日(2020年6月30日)の時価1,734円を基準にした場合、そのアップ率はわずか5.8%と債権者に非常に有利なものでした。
故に、HTL16878の導出契約締結に目処が立ったこのタイミングで、旨味の少ない低価な転換価額(1,834円)での新規株式発行を防ぐ判断をしたと思われます。
さらに、2025年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の規約に則った場合、約869万株の発行で約160億円の資金調達が可能になりますが、2026年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の規約では転換価額が2,235円であることから約195億円の調達が可能となり、先述した30億円のマイナスをカバーする差額35億円のプラスに加え、支払利息の利率を半分にした価値を持つことになります。
対して、2026年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債では、本件のような新規株式発行を防ぐこと、要するに、債権者に対して株式転換を行わさせないようにする施策は取らないと推測しています。
これはアップ率の基準を時価に基づいていること、アップ率が25%と十分に高いこと、そして300億円のうち100億円を戦略的投資に充当することから、3回目の建転換社債型新株予約権付社債発行によって既存債権の買取りを行った場合、負債の割合が大幅に高まることで財務リスクが跳ね上がってしまうからです。
さらに、2026年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の規約では以下の130%コールオプション条項の通り、転換価額の30%(1株2,905円)まで上昇しても株式転換しないケースにおいて買取りを示唆しており、逆に言えば、そーせいは今後の自社株の上昇を期待していることと、上昇局面においての債権者による株式転換を好意的に受け止めているのではないでしょうか。
・130%コールオプション条項(「2026年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ」抜粋)
『(ロ)130%コールオプション条項による繰上償還株式会社東京証券取引所における当社普通株式の普通取引の終値(以下「終値」という。)が、30連続取引日(以下に定義する。)のうち20取引日において当該各取引日に適用のある上記6(4)(ロ)記載の転換価額の130%以上であった場合、当社は、その選択により、当該30連続取引日の末日から30日以内に本新株予約権付社債権者に対して、30日以上60日以内の事前の通知(かかる通知は取り消すことができない。)をしたうえで、2024年8月27日以降、残存本社債の全部(一部は不可)をその額面金額の100%の価額に当該償還日(同日を含まない。)までの未払経過利息を付して繰上償還することができる。』
以上より、ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行という新しい試みを匠に運営・管理し、投資家(同債権者および既存株主)のメリットも十分に担保しながら成長戦略に取り組むためのそーせいのコーポレート・ファイナンスは非常に優秀だと評価すべきことです。
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