そーせいの統合失調症を適応とするM4作動薬HTL16878の競合開発品として、KarXT(Karuna社)とCVL-231(Cerevel社)が上げられます。
特にKarXTは統合失調症治療薬の開発として最も先を行くプログラムであり、HTL16878と作用機序が酷似しています。
KarXTはキサノメリンと塩化トロスピウムを組み合わせた医薬品であり、キサノメリンはEli Lilly社から導入し、塩化トロスピウムは胃腸薬として昔から使われている現ジェネリック医薬品です。
キサノメリンはM1以外のムスカリン受容体を活性化させてしまうことで毒性(副作用)を引き起こし、そのためEli Lilly社はKaruna社へと手放しましたが、Karuna社は塩化トロスピウムによってM2およびM3起因の反応をブロックすることでその毒性に対処しようと試み、結果として統合失調症治療薬の開発をリードする形となっています。
KarXTによる統合失調症治療薬開発プログラムはEMERGENTと名付けた臨床試験によって行われています。
EMERGENTは5つの臨床試験によって構成され、2019年11月に発表したポジティブな結果はEMERGENT-1(フェーズ2)によるものです。
そして、その他4つのEMERGENTも既に開始されており、EMERGENT-2(フェーズ3)は2022年後半にトップラインデータの結果が発表される予定です。

上図はEMERGENT試験の試験開始日から主要評価項目のデータ取得完了予定日までをまとめたものです。
また、EMERGENT-2、3、4は区別された臨床試験ですが、EMERGENT-2は米国向けの短期間(5週間)治療試験、EMERGENT-3は欧州(米国一部含む)向け短期間(5週間)治療試験、そして、EMERGENT-4は同2と3の患者のみが参加出来る欧米向けの長期間(52週間)試験のため、EMERGENT-2、3、4を一つの臨床試験ともみなせます。
EMERGENT-5はEMERGENT-4と同様に長期間(52週間)試験ですが、相違点はCGI-Sで測るエンロール患者の重症度です。
CGI-S(Clinical Global Impressions – severity of illness)は統合失調症の重症度の臨床評価尺度であり、1:正常、2:精神疾患の境界線上、3:軽度の精神疾患、4:中等度の精神疾患、5:顕著な精神疾患、6:重度の精神疾患、7:極めて重度な精神疾患とされています。
EMERGENT-4は同-2、3から継続する試験であり、そのエンロール患者の重症度はCGI-Sが4以上としていますが、EMERGENT-5では同スコアを4以下としています。
また、EMERGENT-4、5は非盲検試験であることから、同試験の一番の目的はKarXTの長期投与による安全性を測ることにあると考えられます。
この点に関しては前述した通り、KarXTを構成するキサノメリンの安全性リスクが高いことが背景として上げられ、長期間治療がKarXTの弱点とも言えます。
余談ですが、HTL16878のM4に対する選択性の高さから派生する安全性の高さという強みを活かすのであれば、HTL16878の開発戦略は統合失調症の長期間治療を前提とした計画が優先される可能性があり、そーせいがHTL16878を「非常に選択性の高いムスカリンM4作動薬」と何度もPRする理由はその点にあります。
KarXTの統合失調症治療薬開発プログラムEMERGENTを考察する限り、Karuna社はKarXTを統合失調症の短期間治療薬として開発を優先しており、そのため開発スピードも非常に早く、早ければ2024年中には承認まで行き着くことが考えられます。
そーせいのHTL16878の進捗予想に話を移すと、2021年末までに導出契約が完了し、長期間治療を前提としたプログラムが順調に進捗した場合、2029年頃には承認審査の結果が得られると想定されます。
ただし、それを可能とする資金力豊富なグローバル製薬企業にHTL16878が導出された場合に限ります。
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