モダリスは2021年8月5日、「MDL-206の共同研究開発契約期間の満了と自社モデルパイプラインへ追加するお知らせ」と題し、アステラス製薬社とのMDL-206によるエンジェルマン症候群を適応とする治療薬の共同開発を終了し、今後はモダリス自社によってMDL-206の開発を進めることを報告しました。
エンジェルマン症候群は、15番染色体*の異常が原因と知られており、症状としては重度の精神発達の遅れ、てんかん、失調性運動障害、行動異常、睡眠障害などが上げられます。
*染色体:23対(計46本)のひも状の情報であり、染色体の中に遺伝子**が存在し、体の設計図の役割をしている。
**遺伝子:親の生物学的な特徴が子供に伝わることを遺伝といい、それを伝えるDNAの特定の部分が遺伝子である。
なお、染色体異常と遺伝子異常は意味が異なり、染色体異常は染色体の形や数の変化を指し、遺伝子異常は遺伝子を構成する文字列の文字の変化を指します。
これらの異常がある場合、身体成長の発達が遅れや、顔造形の特徴など、様々な症状が出ます。
エンジェルマン症候群は前記した通り15番染色体の異常が原因ですが、それによって、15染色体上にあるUBE3A遺伝子が機能を失ってしまうことが直接的な原因と考えられています。
モダリスのゲノム編集技術CRISPR-GNDMは基盤技術であるCRISPR-Cas9とは異なり、遺伝子切断によるゲノム改変ではなく、遺伝子機能の発現または喪失によるゲノム操作を特徴とします。
要するに、「遺伝子の失った機能を取り戻すこと」を目的とするのではなく、「遺伝子の失った機能を補完する遺伝子を発掘し、その遺伝子の機能を発言することで異常遺伝子の代用を目指すこと」がモダリスのゲノム編集技術CRISPR-GNDMのコンセプトです。
そのため、エンジェルマン症候群の場合、異常染色体である15番染色体のUBE3A遺伝子を補完する遺伝子を発掘する必要が出てきますが、UBE3A遺伝子は母親由来のものと、父親由来のものと、実は2つ存在しており、人間の体では父親由来のものは眠った状態で、母親由来のものだけが働いています。
エンジェルマン症候群では母親由来のUBE3A遺伝子の機能が正常に働いていないため、モダリスは本来眠っている父親由来のUBE3A遺伝子の眠りを覚ますことで、母親由来UBE3A遺伝子の代わりを務めさせようと試みており、モダリスはこのプロジェクトのことをMDL-206としています。
しかし、MDL-101と同じくCRISPR-GNDMに基づいているMDL-206にも関わらず、アステラス製薬はその共同開発を終了しました。
この背景には、ゲノム編集による治療薬開発の戦略上最も重要な要素の一つである「疾患の死亡リスク」が影響を与えていると考えられます。
MDL-101は先天性筋ジストロフィーの一種であるMDC1A(先天性筋ジストロフィー1A型)を対象とし、その死亡リスク(平均余命 = 20代前半)は非常に高いです。
対するエンジェルマン症候群の死亡リスク(平均余命 = 一般人と同じ)は低いです。
最先端技術であるゲノム編集による治療薬の開発では、基本的に「死亡リスクの高い遺伝子疾患」を取っ掛かりとします。
そしてそれは、「(ゲノム編集とうい未知の治療薬という障壁による)治験患者のエンロールのしやすさ」と「早期条件付き承認の可能性」が主な理由です。
故に、遺伝子疾患とはいえ、死亡リスクの低いエンジェルマン症候群の開発をアステラス製薬が見送ったと考えています。
現在アステラス製薬はMDL-201(筋疾患)、MDL-202(筋疾患)、MDL-204(中枢神経疾患)をモダリスと共同開発しておりますが、原因遺伝子が特定され死亡リスクの低いミオパチー(筋疾患)などであれば今後も開発中止リスクは恒常化します。
対して、ラミノパチー(筋疾患)や髄性筋萎縮症(中枢神経疾患)などの死亡リスクが高い疾患を対象とした開発であれば、開発中止リスクは少ないと考えております。
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