オンコリスバイオファーマ|OBP-601の神経変性疾患に対する治療メカニズムの解説とアルツハイマー病治療薬としての期待


2022年8月17日に、オンコリスバイオファーマは核酸系逆転写酵素阻害剤「OBP-601」による進行性核上性麻痺(PSP)を適応としたフェーズ2a試験の患者登録(42名)が完了したことを報告しました。

2020年6月にオンコリスバイオファーマはTransposon社へOBP-601を導出したため、正しくはTPN-101と表記すべきですが、本記事ではOBP-601と表記致します。

なお、OBP-601の導出は神経領域に関する開発についてであり、販売ロイヤルティを除く契約金の総額は最大で3億ドルです。

さらに、補足として、OBP-601はオンコリスバイオファーマが2006年にYale大学から導入した製品であり、2010年にHIV治療薬の開発品としてBristol-Myers Squibb(BMS)社へ導出された過去があります。

しかし、BMS社はHIVを適応とするフェーズ2試験まで進めたものの、同試験によって得られたデータがBMS社の設定した基準を満たしていないという理由により、2014年4月に同導出契約は解消され、OBP-601のライセンスはオンコリスバイオファーマへと返還されました。




一方で、同試験に関するその後のデータ解析や、新たな非臨床試験により、OBP-601が神経変性疾患に対して有効であることが示唆されました。

神経変性疾患と遺伝子の関わりは強く、同疾患の原因とも考えられている細胞内を動き回る遺伝子「トランスポゾン」も高い注目を集めています。

また、複製を繰り返す遺伝子ですが、トランスポゾンに関しては複製の流れが2種類あり、その流れの違いによってカット&ペースト(DNA→DNA)のDNA型と、コピー&ペースト(DNA→RNA→DNA)RNA型とに分けられます。

そして、後者のRNA型をレトロトランスポゾンと呼びます。

レトロトランスポゾンの特徴はコピー&ペーストによる遺伝子複製の際に変異を起こりやすいことであり、そのことが神経細胞の損傷に関与してしまいます。

傷を負った神経細胞が神経変性疾患の発症や症状の悪化を引き起こすと考えられているため、レトロトランスポゾンによる遺伝子変異を抑制することが同疾患の治療に有効であると期待されています。




そして、OBP-601の作用は正しくその期待される作用であり、レトロトランスポゾンのコピー&ペーストによる遺伝子複製を抑制する効果が認められています。

OBP-601による臨床試験はPSPの他、ALSを適応とするフェーズ2試験も進行中であり、両試験とも早ければ2023年中のトップラインデータの発表が期待されている状況です。

さらに、BMS社が実施したHIVフェーズ2試験から得られたデータにより、OBP-601を長期投与された被験者においてアルツハイマー病の発症リスクが低い傾向が見られました。

そのため、Transposon社はアルツハイマー病治療薬の開発も見据えていると考えられ、OBP-601は想定以上の潜在価値を持っているかもしれません。

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