サンバイオ(2021年3月号|ガイドブック)


1.現状

サンバイオは再生医療研究が活発な日本、アメリカ、ウクライナの3国において再生細胞医薬品SB623による慢性期外傷性脳損傷治療薬の開発に注力しています。

創薬系バイオテック企業の開発早期段階では一つの国に絞って臨床試験を行うことが一般的ですが、サンバイオは開発早期段階から複数の国を跨ぐグローバル臨床試験を行っています。

慢性期外傷性脳損傷治療薬の開発状況はフェーズ2a治験(エンロール数61人)が完了した段階です。

同治験のエンロール患者は前述した日本、アメリカ、ウクライナの3国で登録され、2019年9月に同治験の主要評価項目が達成されたと公表されました。

それ以降、サンバイオは同治療薬の開発を進めることではなく、日本における再生医療等製品としての先駆け審査指定制度を利用した条件付き早期承認申請の準備を優先することを選択しました。

当初の予定では2021年1月期中に承認申請を行う予定でしたが、SB623の慢性期外傷性脳損傷に対する有効性、サプライチェーン*の確立、承認後のデータ解析等、複数の課題によってサンバイオは同期中の承認申請は難しいと見込んでいます。

サンバイオはSB623による他の適応症や、SB618、SB308、MSC1、MSC2など複数の開発資源を保有していますが、財務状況を理由として、それらを臨床試験へ進めるには導出契約によるパートナーを必要とする状況です。

また、SB623による慢性期脳梗塞の治療薬開発は導出先であった帝人社(ライセンス:日本)および大日本住友製薬社(ライセンス:アメリカ、カナダ)との契約解消により開発がストップしている状況です。

そのため、開発の進捗度、そして、事業資金の兼ね合いより、サンバイオの経営活動はSB623の慢性期外傷性脳損傷治療薬の早期承認申請を中心に動いています。

*サプライチェーン:製品の材料や部品の調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの一連の流れのこと。

 

2.主要な開発パイプライン

・慢性期外傷性脳損傷【日本・アメリカ】

人間の脳は無数の神経と、栄養を送る血管で構成されており、サンバイオはSB623を脳に投与することで、脳の神経や血管を再生しようと試みています。

外傷性脳損傷は交通事故などの外部から頭部に強い力が加わることで、脳の組織が傷つくことによって生じ、主に脳の神経の損傷を原因とする半身麻痺や感覚・記憶障害が引き起こされます。

そのため、外傷性脳損傷を治療するためには損傷した部位の神経を再生する必要があります。

サンバイオのSB623による脳神経再生の作用機序は、SB623を損傷部位に投与することで脳内に存在する神経幹細胞を損傷部位に呼び寄せます。

そして、呼び寄せられた神経幹細胞が損傷した神経に分化*することを以て神経再生治療が完了します。

作用機序の理解は容易ですが、SB623の能力に対して注意すべき点がいくつか上げられます。

まず、SB623自体には神経再生能力が備わっていないことです。

SB623は骨髄液由来の間葉系幹細胞です。

間葉系幹細胞は生体内で作られる幹細胞**であり、骨髄、脂肪、臍帯(へその緒)、滑膜(関節の周囲にある組織)などに含まれています。

また、間葉系幹細胞は骨、軟骨、腱、脂肪、神経などへ分化する能力を有しており、この能力ゆえに間葉系幹細胞が再生医療において注目を集めています。

さらに、間葉系幹細胞は体の中に存在する幹細胞であるため、受精卵から人になる経過中の胚を使用するES細胞(胚性幹細胞)に比べて医療に用いる倫理上のハードルが低いというメリットがあります。

加えて、iPS細胞(人工多能性幹細胞)に比べて癌化リスクが低いため、安全性が高いというメリットもあります。

しかしながら、間葉系幹細胞は骨髄の細胞の中に1万~10万個に1個の割合しか存在せず、加齢と共に減少し、再生医療に用いる量の間葉系幹細胞を取り出すためには、一般的に大量の骨髄液の採取が必要です。

そして、間葉系幹細胞は5つの能力(細胞遊⾛能⼒・免疫調整能⼒・成長因子供給能⼒・線維化調節能⼒・組織再⽣能⼒)を有しています。

外傷性脳損傷に対しては間葉系幹細胞の組織再生能力を活かしたいところですが、間葉系幹細胞は体外による培養によって3つの能力(細胞遊⾛能⼒・線維化調節能⼒・組織再⽣能⼒)が失われます。

そのため、体外培養の工程を通るSB623には組織再生能力は備わっていません。

その上、間葉系幹細胞は3つの性質(外胚葉性・中胚葉性・内胚葉性)に分類され、分化する組織も異なり、SB623が該当する中胚葉性間葉系幹細胞は神経に分化しません(中胚葉性間葉系幹細胞は骨、軟骨、脂肪、血管、真皮、筋肉、靭帯、心臓、 その他に分化します)。

前述した通り、外傷性脳損傷を治療するためには損傷した部位の神経を再生する必要がありますが、サンバイオのSB623には直接的に神経を再生する作用は無いため、SB623を損傷部位に投与することで脳内に存在する神経幹細胞を損傷部位に呼び寄せ、神経幹細胞を神経細胞へと分化させる方法を同疾患の治療法として選択しています。

なお、投与方法は頭蓋骨に穴を開け、カニューレと呼ばれる液体挿入管を用いて投与するため、外科手術が必要です。

続いての注意点はSB623のパワーです。

サンバイオはSB623を用いて慢性期脳梗塞の治療薬の開発を進めていました。

脳梗塞は血管が細くなったり詰まったりすることで血液の流入が止まり、脳に酸素や栄養が行き渡らなくなった結果、脳の神経細胞が壊死する疾患です。

そしてSB623の脳梗塞に対する作用は、脳血管動脈硬化に繋がる炎症の抑制、栄養不足の神経細胞への成長因子の供給の、一方または両方が主な作用と推測されます。

SB623の能力を十分に発揮出来れば脳梗塞に対して有効な結果が得られると期待されておりましたが、米国でのフェーズ2治験(エンロール数163人)では全くと言っていい程に有効な結果が得られませんでした。

その後の追加解析において、軽度の脳梗塞患者に対してはSB623の有効性も示唆されましたが、有効性を出すための追加解析のきらいがあるのも事実です。

そのため、SB623のパワーに対する不安が残り、外傷性脳損傷と脳梗塞に対する治療の作用機序が異なるにせよ、SB623は治療効果を発揮する程のパワーを保持していないのではないかと疑問が生じます。

*分化:細胞が組織や臓器に変化すること。

**幹細胞:幹細胞は組織や臓器になる前の細胞であり、傷ついた組織の修復や壊死した細胞の再生をする能力のある細胞。

 

3.その他の重要な経営活動

・先駆け審査指定制度を利用した条件付き早期承認申請

サンバイオはSB623を用いた慢性期外傷性脳損傷を適応とするフェーズ2a治験(エンロール数61人)において主要評価項目を達成しました。

サンバイオはこの治験結果を以て、日本における再生医療等製品としての先駆け審査指定制度を利用した条件付き早期承認申請の準備を行っています。

しかし、当初の予定では2021年1月期中に承認申請を行う予定でしたが、SB623の慢性期外傷性脳損傷に対する有効性、サプライチェーンの確立、承認後のデータ解析等、複数の課題によってサンバイオは同期中の承認申請は難しいと見込んでいます。

仮にSB623が慢性期外傷性脳損傷の治療薬として条件付き早期承認を得られたとしても、承認後に設定されるモニタリング期間中に再度SB623の有効性を実証しなくてはなりません。

その際に課題となることが、コントロール群(SB623を投与されないグループ)の患者を十分に集められるかどうかです。

治験とは異なり、条件付きとは言え既に承認を受けている治療薬を敢えて投与しない患者を見つけることは容易ではなく、これは再生医療製品に関する早期承認制度自体の課題とも言えます。

計画に遅れが生じているものの、サンバイオはSB623による慢性期外傷性脳損傷を適応とするグローバルフェーズ3治験を計画しています。

早期承認によって得られる多少の売上高よりも、承認申請の準備によって生じる費用や人的資源のロス、さらにはグローバルフェーズ3治験を計画しているのであれば先駆け審査指定制度を利用するメリットは大きくありません。

 

4.財務上の注意点

・特になし

サンバイオは136億円もの潤沢な現金及び預金を保有し、コミットメント契約による借入も53億円(総額81億円、借入実行額28億円)の残高を残しています。

2022年1月期中には約25億円の借入返済が発生するものの、サンバイオの財務状況ではリスクと捉える必要はないと考えています。

 

5.財務諸表

年度2020年1月期2019年1月期2018年1月期
損益計算書【連結】
 売上高447741490
 営業利益-5,486-3,733-4,378
 経常利益-5,146-2,919-3,947
 当期利益-5,157-2,920-3,940
貸借対照表【連結】
 総資産15,60513,9755,193
 自己資本10,8268,874834
 資本金8,0839,4313,875
 有利子負債4,0004,0332,299
キャッシュ・フロー計算書【連結】
 営業活動によるキャッシュ・フロー-5,717-3,968-1,906
 投資活動によるキャッシュ・フロー-114-1,007658
 財務活動によるキャッシュ・フロー7,02212,719982
 キャッシュ・フロー合計1,1917,744-266
経営指標【連結】
 自己資本比率69.4%63.5%16.1%
 ROA(総資産利益率)-34.9%-30.5%-68.6%
 ROE(自己資本利益率)-52.4%-60.2%-145.6%
 総資産経常利益率-34.8%-30.5%-68.7%
単位:百万円(%箇所を除く)

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