クリングルファーマはHGFタンパク質製剤「KP-100IT」によるALSフェーズ2試験において、主要評価項目であるALSFRSスコアの変化量(24週時点)の有意差が得られなかったことを報告しました。
さらに、ALSFRS-Rスコアの30日あたりの変化量や、24週時のALSFRS-Rドメインごとのサブスコア(球機能、四肢機能、呼吸機能)、ALS患者のQOLを評価するALSAQ-40スコアなどの副次評価項目に関しても有意差が得られませんでした。
一方、KP-100IT投与群において進行抑制が認められた症例もあるため、KP-100ITによるALS治療薬開発の評価は意見が分かれるところです。
ALSは症状の進行が急速であり、発症から死亡までの期間は約3.5年(42ヶ月)とされています。
そして、ALSは罹病期間20ヶ月頃に進行のペースに変化が見られ、罹病期間20ヶ月以内のALS患者ではALSFRSスコアの低下が一ヶ月あたり1程度であるのに対し、同20ヶ月以降の患者では同スコアの低下がほとんど無くなります。
そのため、ALS治療薬の開発においては、罹病期間20ヶ月以内のALS患者に対してと、同期間20ヶ月以後のALS患者に対してとでは、治療薬に求められる作用が異なります。
例えば同期間20ヶ月以内のALS患者に対しては神経保護作用と神経再生作用が有効であるのに対し、同期間20ヶ月以後の同患者に対しては神経再生作用が有効であるといった形です。
以上を踏まえると、KP-100ITによるALSフェーズ2試験では主要評価項目および副次評価項目において有意差が得られませんでしたが、今後の解析結果によってはプロトコルの条件を修正した上でフェーズ3試験へと進む可能性が考えられます。
そして、ALSフェーズ3試験へ進むためのポイントは、同フェーズ2試験において、KP-100ITとプラセボ群で被験者の罹病期間に偏りがあるかどうかです。
前記した通り、ALSでは罹病期間が20ヶ月を超えるとALSFRSスコアの低下がほとんどなくなるため、同期間20ヶ月以降の患者が多くエンロールされているほど、見せかけの高い有効性が得られます。
同フェーズ2試験ではALS患者の選択基準が罹病期間30ヶ月以内であるため、プラセボ群に同20ヶ月以上の患者が多くエンロールされている可能性が残され、その場合、同20ヶ月以内の患者に絞って解析を行う価値が発生します。
また、被験者におけるALS発症部位の偏りも治療効果に影響を与える要素です。
クリングルファーマのKP-100ITによるALS治療のメカニズムは既存治療薬や開発医薬品とは大きく異なり、下位運動ニューロンの保護をその主要作用としています。
承認薬である田辺三菱製薬社のエダラボンのように、脳神経細胞(上位運動ニューロン)の保護を主要作用とする開発治療薬が多いことを考えると、同作用は非常にユニークなものと言えます。
そして、多くのALS治療開発薬では下肢発症型ALSに対する有効性を発揮しにくい傾向があるため、クリングルファーマがKP-100ITの特性を活かし、下肢発症型ALS患者を多くエンロールしたかどうかも気になるところです。
このように、今回のフェーズ2試験はエンロールによる負の影響の可能性を否定できず、KP-100ITの有効性の評価を下すには時期早々です。