メドレックス(2021年3月号|ガイドブック)


1.現状

メドレックスは医薬品業種に区分されていますが、精密機器業種の特色が強いジェネリック創薬系バイオテック企業です。

メドレックスの創薬戦略は、基盤技術である経皮吸収型製剤*技術(ILTS:薬物イオン液体化技術、NCTS:薬物ナノコロイド**化技術)、または、マイクロニードルアレイ(微小針集合体)に、ジェネリック医薬品(物質特許期限切れ医薬品)や他社ライセンスの医薬品を搭載することで、既存の投与法よりも医薬品の効果や効率を向上させることを目標としています。

メドレックスのパイプラインの中で最も開発が進んでいるものが帯状疱疹後神経疼痛を適応とするパイプラインです(基盤技術:ILTS、プログラムコード:MRX-5LBT)。

MRX-5LBTはアメリカでの上市を目指し、既にFDA(アメリカ食品医薬品局)に対してNDA(新薬承認申請書)を提出しています。

同NDAは2020年10月にFDAから受理されたため、1年後の2021年10月頃には審査結果が得られ、MRX-5LBTの承認の可否が判明します。

メドレックスのその他のパイプラインの適応症は、痙性麻痺(基盤技術:ILTS、プログラムコード:CPN-101)、中枢性鎮痛(同:ILTS、同:MRX-9FLT)、中枢性鎮痛(同:ILTS、同:MRX-1OXT)、アルツハイマー(同:NCTS、同:MRX-7MLL)です。

しかしこれらは全てフェーズ1以下のパイプラインであり、また開発の遅延(CPN-101)や見送り(MRX-1OXT)なども合わせ、MRX-5LBTに比べるとメドレックスの開発優先度は低い状態です。

また、マイクロニードルアレイを用いた治療薬の開発は現在行っておらず、提携医薬品の獲得、または、同アレイに搭載するジェネリック医薬品の選定が求められている状況です。

*経皮吸収型製剤:貼付剤の形をし、貼付部位の皮膚や筋肉への局所的な作用ではなく、有効成分を皮膚から血液中に吸収させて全身に送り届けることを目的とするもの。

**ナノコロイド:微小な液滴あるいは微粒子がナノサイズのコロイド(物質が微小な液滴あるいは微粒子を形成して別の物質に分散している状態)のこと。

 

2.主要な医療用精密機器

・ILTS(薬物イオン液体化技術)経皮吸収型製剤【アメリカ】

メドレックスの経皮製剤技術ILTSでは、従来の技術では経皮吸収させることが困難であった難溶性薬物や核酸・ペプチドなどの高分子化合物を、イオン液体の特徴を利用することで経皮吸収を可能にしたと主張しています。

イオン液体はその特徴(低蒸気圧、液体温度範囲の広さ、難燃性、熱高安定性、電気化学的高安定性、電気高伝導性、特定物質の高溶解性)から、工業用品として用いられることが多く、特にリチウムイオンバッテリーなどの電解質*として用いられています。

メドレックスのILTSは薬物をイオン液体に溶かすこと、または、薬物自体をイオン液体化することで、経皮浸透性を大幅に高めたとしています。

この方法により、メドレックスは一般的な医薬品の投与法である経口投与や注射投与のデメリットである臓器負担や薬物動態**の不安定性の向上を狙い、それらに取って代わる新たな投与法としての地位の確立を狙っています。

しかしながら、ILTSは経口投与および注射投与に取って代わるほどのインパクトは残せておらず、経皮吸収の壁に直面しています。

それは2018年8月に締結された武田薬品工業社との技術ライセンス契約が、1年程で解消されたことからも読み解けます。

武田薬品工業からの同契約解消は、同社の重点領域であるオンコロジー(がん)、希少疾患、神経精神疾患、消化器系疾患の医薬品投与法として不適合であったことが理由であり、それらの疾患治療として用いられる注射による投与に比べ、ILTSによる投与では薬物血中濃度が基準に満たなかった(経皮浸透性が不十分であった)と考えられます。

*電解質:水に溶けると電気を通す物質。

**薬物動態:体内での薬物の動き。

 

3.主要な開発パイプライン

・帯状疱疹後における神経疼痛治療薬の開発【アメリカ】

メドレックスのILTSは武田薬品工業社から評価基準未達を理由に契約解消された様に、経口投与または注射投与による医薬品に対し、ILTSの経皮浸透性が不十分な可能性があります。

そのため、メドレックスは経皮吸収による治療効果が既に立証されているリドカインに狙いを絞りました。

リドカインは帯状疱疹後における神経疼痛治療薬(製品名:Lidoderm 販売会社:Endo社)として1990年代に上市しており、既に物質特許切れの医薬品化合物であるため、多くののジェネリック医薬品が存在しています。

そしてメドレックスは、経皮浸透性が一般貼付剤よりも優れたILTSにリドカインを搭載することで、既存のリドカイン剤よりも低皮膚刺激、高粘着力なリドカイン剤を生み出そうとしています(現在FDAによる承認審査中)。

しかし、その特徴(低皮膚刺激、高粘着力)が患者に対して十分な訴求力を持つかは疑問です。

既存品より高性能である医薬品は価格が高く設定されますが、効能が同等であればアメリカの患者は多少の性能を犠牲にしてでも価格を優先する傾向にあります。

したがって、メドレックスの製品Lydolyte(プログラムコード:MRX-5LBT)は、既存薬使用による炎症や被れなどの皮膚疾患が生じた場合や、可動域が広い関節などに貼付する場合などに利用されることが想定され、非常に限定的な使用法になる可能性があります。

また、メドレックスはIQVIA*のデータを用いてアメリカのリドカイン貼付剤市場規模を500億円(2019年)と提示していますが、Lydolyteの競合製品であるLidodermの売上高は約50億円(2017年)です。

価格競争力では既存のジェネリック医薬品が優勢であり、かつ、Lydolyteの持つ強みの訴求力に疑問があるため、同製品のアメリカ市場での存在感は薄く、上市したとしても売上高は極めて小さいと考えています。

*IQVIA:受託研究や製薬コンサルティングサービスを展開するアメリカ企業。

 

4.その他の重要な経営活動

・マイクロニードルアレイの開発

マイクロニードルは長さ1 mm以下の針であり、皮膚に刺しても神経を損傷しにくく、従来の注射針に比べて痛みを伴わないことが特徴です。

また、これまでのマイクロニードル(第一世代マイクロニードル)は材料に金属やチタンなど、体内で折れ残ることで重篤な組織傷害を引き起こす危険性を有していましたが、第二世代マイクロニードルでは材料に生分解性バイオポリマーや生体由来成分であるヒアルロン酸などを利用することで、体内に針が折れ残ったとしても溶けて無くなる溶解型マイクロニードルとして安全性を飛躍的に高めました。

そしてメドレックスのマイクロニードルアレイは、第二世代マイクロニードルの集合体をアプリケーターと呼ばれる器具に装着したものを指します。

特に医療業界では、注射器に取って代わる次世代の薬物投与法として注目を集めるマイクロニードルですが、マイクロニードルの研究開発は多数の企業によって進められています。

そのため、競合他社が非常に多く存在することに注意を払う必要があります。

しかし、メドレックスは2020年4月に同製品に治験薬を導入するための工場を稼働させており、競争上の状況は極めて良好です。

 

5.財務上の注意点

・特になし

2020年12月末時点での現金及び現金同等物は約18億円であり、年間10億円を超えるマイナスの営業活動によるキャッシュ・フローなものの、2022年に米国でのLydolyteの上市が見込まれることや、Cipla社からのCPN-101のマイルストーンである600万ドルの分割受領が見込まれるため、手元資金の流出を大きく削減出来るものと考えられます。

 

6.財務諸表

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