1 創薬企業の相場概況
創薬銘柄でも決算発表が本格化し、先週末にはオンコセラピー・サイエンス(オンコセラピー)、カルナバイオサイエンス、キッズウェル・バイオ、オンコリスバイオファーマ、モダリスの5社が四半期決算発表を行いました。
2022年第1四半期決算を発表したオンコセラピーは、癌細胞の遺伝子解析サービスを主体とする癌プレシジョン事業が堅調であり、同事業による(外部顧客)売上は前年同期比4.4倍の3.8億円となりました。
オンコセラピーの癌プレシジョン事業は急成長しており、その背景には同事業の舵取り役でもある現代表取締役社長 嶋田氏の手腕によるところが大きいでしょう。
また、癌治療として適応やステージを拡大させる抗PD-1/PD-L1抗体による免疫療法など、癌遺伝子解析のニーズは高まっており、オンコセラピーの同事業に対する注目もそれに合わせて高まると予想されます。
売上高からも軌道にのりつつあると感じる同事業は、前四半期に過去最高売上の8.2億円を計上した勢いそのままに、外的にも内的にも成長が期待出来る事業と言えます。
▼癌プレシジョン事業と嶋田氏についての参考記事
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それに加え、オンコセラピーは再発性急性骨髄性白血病(AML)に対する新規FLT3阻害剤「OTS447」の創生にも成功しており、今後の開発の進捗や導出などのパートナーシップにも期待が持たれます。
なお、AMLは世界で最も患者数の多い急性白血病で、全世界では16万人の患者が存在します。
AML患者数に関しては日本で総計約7,000人である一方、米国では新規患者数が年間2万人と言われており、米国の方が被験者数の集まりは良さそうです。
OTS447の競合医薬品は現時点で複数確認され、承認医薬品ではNovartis社のRYDAPT、開発品では富士フィルム社のFF-10101が上げられます。
RYDAPTはその治療法上、患者一人あたりに見込める最大売上高は約600万円ですが、新規患者数に対する再発患者(約3割)のみを対象とした場合でも、年間売上高360億円(最大)の規模を見込める治療薬です。
富士フィルム社が公表した2022年3月期第1四半期の資料では、FF-10101は2021年8月時点でフェーズ1完了という段階で、進捗は良好とは言い難い状況となっています。
いずれにせよ、Rydaptの治療効果(再発AML患者に対して生存期間4年延長と寛解期間3年延長)が開発の上での一つの指標となると思われます。
2022年12月期第2四半期決算を発表したカルナバイオサイエンスも、オンコセラピーと同様に創薬事業以外が好調です。
カルナバイオサイエンスは今期売上予想を11.9億円と設定していますが、タンパク質の販売やキナーゼ阻害作用の受託試験を請け負う創薬支援事業の好調により、第2四半期までに既に8.4億円の売上を計上しています。
そして、創薬支援事業の下半期の売上が上半期の水準である場合、通期売上は14億円前後となり、予想に対して16%程度の上昇余地が残されています。
また、同事業売上の6割を占める米国地域において、売上が前年比34%増であることも好材料です。
さらに、BTK阻害剤「AS-1763」の中国地域以外での導出の可能性も残されており、今期二度目の上方修正が期待されます。
加えて、Gilead社へ導出し、同社がファースト・インクラスのポテンシャルを持ち得る医薬品と評価する新規DGKα(ジアシルグリセロールキナーゼ-α)阻害剤「GS-9911」の行方も気になるところです。
▼GS-9911についての参考記事
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上記2社に対して、2023年3月期第1四半期決算を発表したキッズウェル・バイオは強気な通期予想の達成に向けて余談を許しません。
主力のバイオシミラー事業を中心に6.1億円を売り上げた同四半期ですが、通期予想の29億円に占める割合は2割程です。
そのため、同通期予想を達成するためには、その他事業による売上を踏まえたとしても、バイオシミラー事業において四半期ごとに10~15%の売上成長が求められ、達成は簡単とは言えません。
2021年2月に策定した中期経営計画の即時未達や、同経営計画の修正をわずか1年で行い、見通しの甘さが指摘される経営陣が立てた通期予想のため、同四半期の決算は同目標達成に対して不安感を覚える内容となりました。
2022年12月期第2四半期決算を発表したオンコリスバイオファーマは、主力パイプラインの「テロメライシン(放射線併用)」による食道癌フェーズ2試験(日本)がまもなく完了します。
そして、同試験結果が良好であった場合、オンコリスバイオファーマは日本において2024年に承認申請を実施する予定です。
売上規模に関しては、目指す適応が「手術不適応な局所進行性の食道癌」ということで、食道癌の中の一部分を適応とするものの、オンコリスバイオファーマは日本において最大200億円の規模が見込めると提示しています。
さらに、中外製薬からテロメライシンのライセンス(日本・台湾および欧米のオプション権)返還を予定していることから、仮に前途適応での承認が得られた場合、特殊な条項が無い限りその全てがオンコリスバイオファーマの売上に計上される予定です。
同条件下において、オンコリスバイオファーマの時価総額は最低200億円の評価が与えられ、その規模はテロメライシンの売上の推移とともに増加していくことでしょう。
2022年12月期第2四半期決算を発表したモダリスでは、事業方針の修正と、臨床試験に繋がる着実なステップアップが印象的でした。
モダリスの創薬モダリティは遺伝子制御技術を基幹としたもので、パイプラインはどれも臨床前段階です。
そのため、株価対策として取れる戦略も限られており、モダリスはその限られた中で「導出契約の数の提示」を一つの策として取り入れていました。
しかしながら、現在は同契約目標数の開示をせず、目標に縛られない導出交渉を行う方針を示しました。
この方針は現在の創薬株に対する評価環境に沿っており、投資家にとっては評価指標の減ったため不便に感じるかもしれませんが、モダリスの成長を考慮すると、デメリットよりもメリットの方が遥かに大きいと思います。
さらに、モダリスはFDAとのINTERACTミーティングを実施し、臨床試験にまた一歩近づきました。
INTERACTミーティングはINDの段階にない治療薬に関する協議を行う場で、特にモダリスの様な新規性の高い技術による治療薬に関しては今後の研究開発に大きく影響を与える重要な協議です。
▼モダリスの技術「CRISPR-GNDM技術」の参考記事
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今回の協議において、モダリスとFDAは「製造プロセスおよびその結果製品の評価方法」、「動物試験に用いる標品と臨床試験に用いる標品の互換性に関する考え方」、「動物試験を実施する動物種」、「動物試験にサロゲート標品を使うことの妥当性」を議題に上げました。
そして、これらに関するFDAの考えはモダリスが事前に想定していたことに近いものであり、協議前と後で、研究開発の方針に大きな変更は無いという結果が得られました。
他の創薬株に比べてモダリスの開発は極めて早期段階ですが、新規性の高い技術であることを考慮すると、現在までの進捗は順調であると言えるでしょう。
2 創薬企業のIR更新情報(前営業日)
【オンコセラピー・サイエンス】
【そーせいグループ】
・ニューロクライン社との複数プログラムを対象とした提携における経口M4受容体作動薬の第2相臨床試験開始のお知らせ
【ナノキャリア】
・インターネットテレビ「株式戦隊アガルンジャー」出演のお知らせ
【カルナバイオサイエンス】
【シンバイオ製薬】
・四半期報告書-第18期第2四半期(令和4年4月1日-令和4年6月30日)
【キッズウェル・バイオ】
・2023年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)
・営業外費用(支払手数料及び為替差損)の計上に関するお知らせ
【オンコリスバイオファーマ】
・2022年12月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(非連結)
【モダリス】
3 創薬株価指数と主要株価指数
創薬株価指数 | 終値 | 前日比(%) |
---|---|---|
創薬平均株価 | 574円 | -1円(-0.19%) |
BR平均株価【大型株】 | 1,684円 | -2円(-0.12%) |
BR平均株価【低分子】 | 695円 | +9円(+1.33%) |
BR平均株価【低分子(大型株除く)】 | 331円 | +7円(+2.25%) |
BR平均株価【ペプチド・タンパク】 | 601円 | -7円(-1.11%) |
BR平均株価【ペプチド・タンパク(大型株除く)】 | 77円 | -1円(-1.53%) |
BR平均株価【抗体・アプタマー】 | 218円 | +0円(+0.12%) |
BR平均株価【再生医療[細胞・増殖因子]】 | 772円 | -14円(-1.74%) |
BR平均株価【遺伝子】 | 341円 | -4円(-1.13%) |
主要株価指数 | 終値 | 前日比(%) |
---|---|---|
TOPIX33[医薬品] | 3,224円 | +53円(+1.67%) |
NBI* | 4,169ドル | +60ドル(+1.45%) |
日経平均株価 | 28,249円 | +79円(+0.28%) |
NASDAQ | 12,658ドル | -63ドル(-0.50%) |
*NBI:NASDAQ Biotechnology Index
4 創薬株価指数とテクニカル指標
創薬平均株価:ジーエヌアイグループ、アンジェス、オンコセラピー・サイエンス、そーせいグループ、ナノキャリア、カルナバイオサイエンス、キャンバス、デ・ウエスタン・セラピテクス研究所、ラクオリア創薬、シンバイオ製薬、カイオム・バイオサイエンス、キッズウェル・バイオ、ペプチドリーム、オンコリスバイオファーマ、リボミック、サンバイオ、ヘリオス、ブライトパス・バイオ、窪田製薬ホールディングス、ソレイジア・ファーマ、Delta−Fly Pharma、ステムリム、メディシノバ、ファンペップ、ペルセウスプロテオミクス、モダリス、クリングルファーマ、レナサイエンス
BR平均株価【大型株】:ジーエヌアイグループ、そーせいグループ、ペプチドリーム
BBR平均株価【低分子】:ジーエヌアイグループ、そーせいグループ、カルナバイオサイエンス、キャンバス、デ・ウエスタン・セラピテクス研究所、ラクオリア創薬、シンバイオ製薬、窪田製薬ホールディングス、ソレイジア・ファーマ、デルタフライファーマ、メディシノバ、レナサイエンス
BBR平均株価【低分子(大型株除く)】:カルナバイオサイエンス、キャンバス、デ・ウエスタン・セラピテクス研究所、ラクオリア創薬、シンバイオ製薬、窪田製薬ホールディングス、ソレイジア・ファーマ、デルタフライファーマ、メディシノバ、レナサイエンス
BR平均株価【ペプチド・タンパク】:オンコセラピー・サイエンス、ペプチドリーム、ブライトパス・バイオ、ファンペップ
BR平均株価【ペプチド・タンパク(大型株除く)】:オンコセラピー・サイエンス、ブライトパス・バイオ、ファンペップ
BR平均株価【抗体・アプタマー】:カイオム・バイオサイエンス、キッズウェル・バイオ、リボミック、ペルセウスプロテオミクス
BR平均株価【再生医療[細胞・増殖因子]】:サンバイオ、ヘリオス、ステムリム、クリングルファーマ
BR平均株価【遺伝子】:アンジェス、ナノキャリア、オンコリスバイオファーマ、モダリス
4 創薬企業の相場のまとめ
全体 | |
---|---|
値上がり銘柄数 | 6銘柄 |
値下がり銘柄数 | 20銘柄 |
変わらず | 2銘柄 |
出来高 | 2,072万株 |
売買代金 | 118億円 |
時価総額 | 8,015億円 |
個別銘柄 | 終値 | 前日比(%) |
---|---|---|
ジーエヌアイグループ | 1,858円 | +23円(+1.3%) |
アンジェス | 360円 | -4円(-1.1%) |
オンコセラピー・サイエンス | 63円 | -1円(-1.6%) |
そーせいグループ | 1,622円 | +9円(+0.6%) |
ナノキャリア | 205円 | -2円(-1.0%) |
カルナバイオサイエンス | 900円 | -15円(-1.6%) |
キャンバス | 632円 | -31円(-4.7%) |
デ・ウエスタン・セラピテクス研究所 | 215円 | -8円(-3.6%) |
ラクオリア創薬 | 822円 | +4円(+0.5%) |
シンバイオ製薬 | 776円 | +100円(+14.8%) |
カイオム・バイオサイエンス | 170円 | +3円(+1.8%) |
キッズウェル・バイオ | 234円 | 0円(0.0%) |
ペプチドリーム | 1,659円 | -18円(-1.1%) |
オンコリスバイオファーマ | 521円 | -4円(-0.8%) |
リボミック | 198円 | -2円(-1.0%) |
サンバイオ | 1,122円 | -9円(-0.8%) |
ヘリオス | 361円 | +3円(+0.8%) |
ブライトパス・バイオ | 84円 | -1円(-1.2%) |
窪田製薬ホールディングス | 281円 | -3円(-1.1%) |
ソレイジア・ファーマ | 70円 | -2円(-2.8%) |
Delta−Fly Pharma | 901円 | -9円(-1.0%) |
ステムリム | 856円 | -34円(-3.8%) |
メディシノバ | 315円 | 0円(0.0%) |
ファンペップ | 212円 | -4円(-1.9%) |
ペルセウスプロテオミクス | 387円 | -3円(-0.8%) |
モダリス | 464円 | -8円(-1.7%) |
クリングルファーマ | 672円 | -3円(-0.4%) |
レナサイエンス | 370円 | -11円(-2.9%) |
6 バイオテックレポート(BR:Biotech Report)からのお願い
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