1.現状
オンコセラピーは癌治療に特化したバイオテック企業であり、事業構造は創薬事業と遺伝子・免疫解析事業の2つで成り立っています。
長期的には創薬事業による安定した大きな収益を計上することが目標ですが、現時点では遺伝子・免疫解析事業による売上計上が中心であり、またその額も望む程のものではありません。
癌治療薬の開発では、免疫反応(癌ペプチド*ワクチン、抗体**医薬)を利用した癌細胞の殺傷と、低分子化合物による癌細胞の破壊の、2つの側面から開発を行っています。
開発進捗が最も進んでいるパイプラインは、塩野義製薬に導出済みである食道癌を適応とするペプチドワクチンS-588410のフェーズ3治験です。
オンコセラピーのペプチドワクチンを用いた治療メカニズムは、癌細胞の目印(ペプチド)を見つけて攻撃をする免疫細胞(細胞傷害性T細胞)を増殖かつ活性化させることで、標的とする癌細胞を殺傷することです。
そのため、同パイプラインの成否はS-588410のその他の適応症(膀胱癌、頭頸部癌、固形癌)に対しても多大な影響を与えます。
S-588410と同様に人体の免疫反応を利用する抗体医薬品(OTSA101、KHK6640)や、低分子化合物医薬品(OTS167、OTS964)は、S-588410に比べると開発初期段階です。
オンコセラピーのパイプラインの中心はS-588410であり、その動向に注目すべき状況です。
*ペプチド:アミノ酸が50個以上結合したものをたんぱく質、50個未満2個以上のものをペプチドと言う。
**抗体:血液や体液に存在し、体内の異物を認識して結合する働きと、免疫細胞を活性化させる働きをする。
***細胞傷害性T細胞(CTL):対象が癌細胞の場合、樹状細胞****から分化することで生成され、癌細胞を攻撃・殺傷する働きを持つ。ただし、癌の初期段階ではCTLが機能できない「免疫寛容」状態になっている。
****樹状細胞:血流を介して体内に広く分布し、対象が癌細胞の場合、癌細胞を取り込むことで攻撃・殺傷すべき癌細胞の目印(ペプチド)を認識したCTLを生み出す。
2.主要な開発パイプライン
・S-588410(癌ペプチドワクチン)【日本・ヨーロッパ・イギリス】
癌細胞は細胞表面にペプチドと呼ばれる特有の性質を持ち、それは癌の種類によって異なります。
そのため、対象とする癌細胞特有のペプチドに対して反応し、癌細胞への攻撃を行う免疫細胞(細胞傷害性T細胞=CTL)を体内で増やすことで、癌細胞の殺傷を試みる治療法が生まれました。
それが、癌ペプチドワクチンです。
オンコセラピーの癌ペプチドワクチンのメカニズムは、特定の癌細胞が表面に持っている目印(ペプチド)を辿ることで癌細胞まで辿り着き、そして殺傷のための攻撃を行うCTLを増殖・活性化させることです。
CTLは樹状細胞から生み出され、樹状細胞は異物を細胞内に取り込むことで攻撃・殺傷すべき異物を認識します。
攻撃対象となる異物を取り込む前の樹状細胞を未熟樹状細胞、取り込んだ後の樹状細胞を成熟樹状細胞と言い、CTLは成熟樹状細胞から生み出されます。
故に、癌細胞に対して攻撃を行うCTLを体内で生成するためには、対象とする癌細胞が表面に持つペプチドを人体に投与し、樹状細胞がそれを細胞内に取り込む必要があります。
塩野義製薬に導出済みの現在開発中である癌ペプチドワクチンS-588410はオンコセラピーの第3世代の癌ペプチドワクチンです。
第1世代ワクチンのOTS102は一種類の目印(ペプチド)を認識するCTL増殖・活性化剤でしたが、膵臓癌に対して統計的に有意な治療効果が得られなかったことから開発が中止されました。
第2世代ワクチンのOCV-C01は複数種類の目印を認識するCTL増殖・活性化剤でしたが、OTS102同様に膵臓癌に対して統計的に有意な治療効果が得られなかったことから開発が中止されました。
なお、癌細胞の複数種類の目印を認識するCTL増殖・活性化剤のことを癌ペプチドカクテルワクチンと言います。
第3世代のS-588410は5種類の目印を認識する癌ペプチドカクテルワクチンであり、最も開発が進んでいるパイプラインの適応症である食道癌の他に、その目印が共通する膀胱癌、頭頸部癌、固形癌に対しての治療効果も期待されています。
しかし、食道癌に対する統計的に有意な治療効果が得られなかった場合は、治療メカニズムが同様であることからも、前述したその他の癌に対する治療効果にも期待が持てなくなってしまいます。
市場規模に話を移すと、食道癌治療薬市場は全世界で約8億ドル(2018年)と推定されており、そのうち半分を日本が占めているとされています。
オンコセラピーのS-588410は癌治療法の免疫療法に該当し、それは同市場の約20%を占めています。
よって日本における免疫療法による食道癌治療薬市場規模は約0.8億ドルであり、日本円に換算すると84億円と少額です(1ドル=105円)。
S-588410はペプチドを癌細胞の目印としていますが、過去2回の実績や他社の同ワクチンの開発中止によって、分子量の低いペプチドを目印とするコンセプトに対して疑問を投げ掛けられています。
オンコセラピーの企業理念である「より副作用の少ないがん治療薬・治療法を一日も早く がんに苦しむ患者さんに届けること、がんとの闘いに勝つこと」を実現するためには、ペプチドを目印とするワクチンでの結果を出し、その疑問を払拭する必要があります。
そのため市場規模は一旦脇に置かれ、S-588410の有効性に注目が集まります。
3.その他の重要な経営活動
・Cancer Precision Medicine(キャンサー プレシジョン メディシン)社
オンコセラピーが63.4%の議決権を保有するCPM(Cancer Precision Medicine)社は、オンコセラピーの癌プレシジョン医療関連事業を担っています。
具体的には癌細胞の遺伝子解析、血中の癌細胞を早期検出するためのリキッドバイオプシー(生体検査)などの受託を、医療機関、研究機関および製薬企業などから受けています。
特にリキッドバイオプシーは大きな成長が望める市場(2025年に6,500億円と試算)として世界中から注目を浴びています。
それ故に競合他社が多く存在し、競合ひしめく中、CPM社は苦戦を強いられています。
CPM社は事業用の固定資産の減損を二度にわたって行った過去があり、それらは合計で約5億円に上ります。
会計処理において固定資産の減損を行う場合は、収益性の低下によって投資額の回収が見込めなくなった際に行われ、現在までに当初見込んでいた事業収益をCPM社が計上出来ておらず、今後も想定通りの収益を上げられないことを暗に示しています。
CPM社はオンコセラピーの研究開発を支えることが主要目的ではありますが、Roche(ロシュ)社やMerck KGaA(独メルク)社などの大手製薬会社も参入する同市場において、CPM社は難しい状況に置かれています。
4.財務上の注意点
・現金資産とキャッシュフロー
オンコセラピーの2020年3月31日時点での現金及び預金は約47億円であり、過去3年間で約75億円の営業キャッシュ・アウトフローを計上している同社にとっては常に資金調達を考慮する状況に立たされています。
バイオテック企業はその特性上、資金調達は新規株式発行によって行われることが主流です。
資金調達のそれ自体は問題ではなく、投資家として気にすべき点はそれが特定の機関投資家向けに発行されるものか、それとも公募増資による不特定多数の投資家向けに発行されるものなのかどうかです。
機関投資家向けに新規株式が発行される場合はポジティブに捉えることが一般的です。
また、公募増資であってもバイオテック企業であればネガティブに捉える必要はありませんが、短期的に流動株が増えることを嫌う投資家もいるため注意が必要です。
5.財務諸表
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