そーせい|癌に対する抗PD-1/PD-L1抗体の弱点とEP4拮抗薬「HTL0039732」の適応患者数と売上高の推定(前立腺癌・頭頸部癌編)


本記事に至るまで、EP4拮抗薬の効能メカニズムや「HTL0039732」の導出先候補に関する内容、および、本記事と同一シリーズである内容で、HTL0039732の大腸癌・胃癌を適応とする売上高の推定や患者数に関して記事を作成しております。

つきましては、EP4拮抗薬「HTL0039732」のより良い理解のため、本記事閲読の前に以下の記事も目を通して頂けると幸いです。

▼EP4拮抗薬の効能メカニズムと「HTL0039732」の導出先候補に関する記事

そーせい|M4/M1受容体作動薬に次ぐEP4拮抗薬の大いなる可能性(効能メカニズムと導出先候補)
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そーせいグループ(そーせい)の代表的な開発品といえばムスカリン(M4/M1)受容体作動薬を思い浮かべるのではないでしょうか。 ムスカリン(M4/M1)受容体作動薬に関して、そーせいはNeurocrine社との間で巨額のライセンス契約(契約一時金:1億ドル、最大26億ドルの開発・販売マイルストン、販売ロイヤリティ)を2021年11月に締結しました。 そーせいが前途巨額の契約締結に至った理由は、同作動薬が統合失調症や認知症など、複数の適応症に対してブロックバスターとなり得る可能性を秘めているからでしょう。 その他、そーせいはPfizer社やGenentech社、武田薬品工業社との間で複数の適応症に対するライセンス契約も結んでおり、10年後の承認を見据えたパイプラインは十分に備えていると言えます。 一方、そーせいはムスカリン受容体作動薬の導出によって、短期的に多額の契約一時金を得られる開発品が欠如することになったもの事実です。 同作動薬の契約締結以降に株価が軟調であったのは、このことが一つの要因であると考えられます。 そのため、そーせいには短期的な売上計上が見込める開発品の登場が待ち望まれていました。 そして、英国王立癌研究基金(Cancer Research UK)との共同開発によって臨床試験へと進むことが決定したEP4拮抗薬「HTL0039732」が、その欠如した穴を埋める開発品になるでしょう。 その理由は、EP4拮抗薬が癌免疫に関わる様々な細胞の働きを円滑にさせる効果が期待されるからです。 癌細胞は免疫を回避する能力を有しており、代表的な例ではPD-L1発現によるT細胞の活動抑制が上げられます。 その他、癌細胞は免疫回避のためPGE2を産生し、癌細胞を攻撃する殺傷性T細胞やNK細胞などの抗腫瘍免疫の抑制や、免疫抑制に関わる制御性T細胞やM2マクロファージなどを活性化させます。 このプロセスは癌細胞から産生されたPGE2と、各細胞に発現するEP4受容体が結びつくことで開始されるため、例えばEP4受容体に蓋をしてしまえば上記プロセスの発動を回避(癌細胞の免疫回避能を阻害)できます。 そして、そーせいのEP4拮抗薬HTL0039732はこの作用を実現するための製品です。 EP4拮抗薬の特徴は幅広い癌免疫系に作用することです。 抗PD-1抗体(オプジーボ/キイトルーダなど)や抗PD-L1抗体(テセントリク/バベンチオなど)が抗腫瘍免疫である殺傷性T細胞の活性化を目的としているのに対し、EP4拮抗薬では前途した通り抗腫瘍免疫や免疫抑制に関わる幅広い細胞に対し、正常な免疫反応を促すことを目的としています。 続いて、EP4拮抗薬の主な用途としては、そーせいが言及する通り、マイクロサテライト安定性(MSS)大腸癌、胃食道癌、頭頸部癌などの、抗PD-1/PD-L1抗体が効力を発揮し難い癌を適応とすることが考えられますが、それ以外にも前記特徴故、抗PD-1/PD-L1抗体の増強剤として用いられる可能性も高いです。 EP4拮抗薬を抗PD-1/PD-L1抗体の増強剤とする活用法は、オプジーボの生みの親である小野薬品工業社が既に検討しており、EP4拮抗薬「ONO-4578」の開発を進めています。 現時点でそーせいがHTL0039732を抗PD-1/PD-L1抗体との併用による開発を行うかは不明ですが、癌を適応とする後期試験では数千人の被験者登録が必要であり、治験費用が高額になることや、企業買収に資金を活用すると公言していることもあり、どこかしらのタイミングで導出することが予想され、その際、抗PD-1/PD-L1抗体の製品を持つ企業が獲得に乗り出すと考えられます、 先に上げたオプジーボはBristol-Myers Squibb社と小野薬品工業社の共同ライセンスの製品であるため、小野薬品工業社のONO-4578が優先的に用いられるでしょう。 そのため、ONO-4578の開発が暗礁に乗り上げた場合に限り、HTL0039732の獲得を検討するのではないでしょうか。 オプジーボの兄弟と言えるキイトルーダを持つMSD社はEP4拮抗薬を保持していないため、HTL0039732の獲得に乗り出す候補の一つと言えます。 また、抗PD-L1抗体の製品を所有する、中外製薬社(製品名:テセントリク)、Merck社/Pfizer社(同:バベンチオ)、AstraZeneca社(同:イミフィンジ)などもHTL0039732に関心を寄せると思われます。
https://biotech-report.info/archives/3429

▼EP4拮抗薬「HTL0039732」の大腸癌・胃癌の適応患者数と売上高に関する記事

そーせい|癌に対する抗PD-1/PD-L1抗体の弱点とEP4拮抗薬「HTL0039732」の適応患者数と売上高の推定(大腸癌・胃癌編)
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EP4拮抗薬に関するコチラの記事「そーせい|M4/M1受容体作動薬に次ぐEP4拮抗薬の大いなる可能性(効能メカニズムと導出先候補)」では、そーせいグループ(そーせい)の事業戦略上の弱点や、その弱点を改善する開発品がEP4拮抗薬「HTL0039732」であること、さらに、抗PD-1/PD-L1抗体との関係性や活用性や導出先候補について解説・考察しました。 同記事に続く本記事では、HTL0039732の販売による売上高を推定し、同開発品を評価する上での期待値を提示したいと考えております。 そして、HTL0039732の承認後の売上高は、適応症の数によって異なり、EP4拮抗薬の特性(癌細胞による抗腫瘍免疫の抑制阻害や、免疫抑制細胞の活性化阻害)では幅広い癌に対して効果が期待されます。 なかでも、そーせいが「がん免疫療法薬候補の臨床試験実施に関するCancer Research UKとの契約締結のお知らせ」中に提示した、マイクロサテライト安定性(MSS)大腸癌、胃食道癌、頭頸部癌、去勢抵抗性前立腺癌では、抗PD-1/PD-L1抗体による免疫療法の効果が限定的であることから、初期の段階では同適応症に狙いを絞って開発が進められると予想されます。 こういった背景を踏まえた上で、抗PD-1/PD-L1抗体との比較から、前途4種類の癌に対するHTL0039732が選択される理由と、HTL0039732が承認された場合の年間売上高の推定を行いたいと思います。 まず、癌の治療薬に関しては、一種類の治療薬において複数の適応症に対して承認を得ることが多く、抗PD-1/PD-L1抗体においても、MSD社の「キイトルーダ」やBristol-Myers Squibb(BMS)社の「オプジーボ」が複数の癌での承認を得ています。 そのため、単一癌に対する製品売上高のデータを得ることが難しく、今回はRoche社の抗VEGF抗体「アバスチン」を参考にさせて頂きます。 アバスチンは2004年2月に転移性大腸癌治療薬として承認され、2006年10月に肺癌の適応が承認されるまでに、世界中でおおよそ45億ドルの売上を計上しました。 アバスチンによる大腸癌単一適応での最終年である2006年度の売上高は30億ドルという結果です。 大腸癌は部位別で3番目に多い癌であることから、現在はバイオシミラー(バイオ後発品)の登場によって売上は減少してしまったものの、同結果は大腸癌治療薬の売上規模の大きさを物語っています。 そして、そーせいがHTL0039732の投与対象として提示するMMS大腸癌は、大腸癌患者の80~85%を占めると推定されています。 MMS大腸癌はマイクロサテライト不安定性(MMI)大腸癌に対して抗原やPD-L1の発現量が少なく、それ故に抗PD-1/PD-L1抗体が効きにくいとされています。 一方、MMI大腸癌ではその性質からT細胞の認識を受けやすいため、抗PD-1/PD-L1抗体が効力を発揮します。 アバスチンの作用は抗PD-1/PD-L1抗体とは異なり、血管新生の抑制や腫瘍の増殖や転移を抑制することのため、変異を伴わない大腸癌においてはMMS/MMIは問いません。 そのため、アバスチンの売上高を参考に大腸癌を適応とするHTL0039732の売上高を推定する場合、その額に80~85%を乗じたおおよそ25億ドルが目安となります。 続いては、胃癌の適応についてです。 胃癌に対しても抗PD-1/PD-L1抗体が適応となっておりますが、初期の適応は三次治療での投与に対してでした。 その後、日本において抗PD-1抗体「オプジーボ」が一次治療でも承認を取得し、話題にも上がりましたが、その効果は限定的と言わざるを得ません。 この点に関しては、癌細胞へ浸潤した殺傷性T細胞と制御性T細におけるPD-1発現の数が問題となっています。 T細胞の免疫反応による癌殺傷は、癌細胞へ浸潤した殺傷性T細胞と制御性T細におけるPD-1発現の数が関わっていると考えられ、抗PD-1/PD-L1抗体による治療効果は、殺傷性T細胞のPD-1発現が制御性T細のPD-1発現を上回っている状況下において発揮される傾向があります。 そして、肺癌などの抗PD-1/PD-L1抗体がよく効く癌では、おおよそ半々の割合で殺傷性T細胞のPD-1発現と制御性T細のPD-1発現の偏りが見られますが、胃癌では制御性T細のPD-1発現が上回る割合が高く、胃癌患者の約75%では抗PD-1抗体が効きにくい状態にあります。 そのような背景があり、胃癌に対する抗PD-1/PD-L1抗体の投与は三次治療において承認されていました。 胃癌の再発率を探った中国での1,300人を対象とした研究では、同再発率は60%とされています。 世界の新規胃癌患者数は大腸癌の約半数の年間1,000万人と推定されいることから、再発患者数は600万人となり、そのうち75%の450万人が抗PD-1/PD-L1抗体が効きにくい患者と推定されます。 そのため、胃癌に対するHTL003973の適応患者数は450万人と導き出されます。 アバスチンの大腸癌単一適応での売上高30億ドル(2006年度)からHTL003973の売上高を推定すると、胃癌新規患者数=大腸癌新規患者数の50%、再発率60%、抗PD-1/PD-L1抗体が効きにくい患者(PD-1発現:殺傷性T細胞>制御性T細)の率75%とした場合、胃癌を適応とするHTL003973の売上高は6.75億ドルとなりました。
https://biotech-report.info/archives/3370





上記関連記事でも言及したとおり、EP4拮抗薬「HTL0039732」による適応症は多岐に渡り、マイクロサテライト安定性(MSS)大腸癌、胃食道癌、頭頸部癌、去勢抵抗性前立腺癌では、抗PD-1/PD-L1抗体による免疫療法の効果が限定的であることから、初期の段階では同適応症に狙いを絞って開発が進められると予想されます。

前立腺癌治療薬では、2019年7月に米国で承認されたBayer社の非転移性去勢抵抗性前立腺癌治療薬「Nubeqa」が、2021年度に2.2億ドルの売上を計上しています。

Nubeqaは前記した非転移性去勢抵抗性前立腺癌の適応に始まり、転移性ホルモン感受性癌に対しても適応を得ました。

また、Nubeqaは併用投与によって標準治療にも組み入れられるなど、適応症や投与法を順調に拡大させています。

このような流れによって、Bayer社はNubeqaを前立腺癌に対する全領域への適応を拡大することで、ピーク時の売上高34億ドルまで引き上げることが可能とコメントを残しています。




加えて、製薬・バイオテクノロジー業界の分析に長けたEvaluate社によると、Nubeqaは2026年度までにブロックバスターに成長すると予想しています。

そーせいのHTL0039732も免疫反応を総合的に高める作用が期待されることから、Nubeqaと同様の道を歩むことが可能だと思われます。

新規患者数が年間140万人以上と推定され、前立腺癌を適応とするHTL0039732の目指すべき売上高は、Nubeqaと同じく30億ドル以上でしょう。

頭頸部癌に関しては、HTL0039732は再発または転移性の一次治療薬として用いられる可能性があります。

現在、同一次治療でMSD社の抗PD-L1抗体「Keytruda」が用いられており、PD-L1発現が強陽性と捉えられるCPS(全腫瘍細胞数中のPD-L1陽性腫瘍細胞とPD-L1陽性免疫細胞の割合)が20以上の同患者に対して高い効果を示しています。

一方、約6割を占めるCPS20未満の同患者に対しての有効性は乏しく、同6割に該当する患者に対する治療薬の開発が課題です。

そして、HTL003973はその6割が選択可能な治療薬になり得る可能性があり、同疾患の一次治療としてKeytrudaと対をなす製品として期待が集まります。




頭頸部癌は大腸癌や前立腺癌に比べて患者数が少なく、再発・転移性頭頸部癌の新規患者数は年間36万人程度です(世界の新規癌患者数1,800万、頭頸部癌率5%、再発・転移率40%として算出)。

このうちの約6割の21.6万人がHTL003973の適応になると見込まれるものの、それはマイクロサテライト安定性大腸癌患者数の15%程度(世界の新規癌患者数1,800万、大腸癌率10%、マイクロサテライト安定性80%として算出)です。

前途では単一製品によるマイクロサテライト安定性大腸癌患を適応とする市場規模は20億ドル以上と申し上げましたが、売上高ベースでHTL003973の頭頸部癌を適応とする売上高を推定すると3億ドル以上が見込めます。

なお、治療費ベースで推定した場合では、米国での頭頸部癌のHTL003973の適応患者は(推定)2.2万にとされ、Keytrudaによる年間治療費15万ドルを当て込むと米国での最大売上規模は33億ドルと導き出されます。

以上を踏まえると、HTL0039732の4つの適応症(MSS大腸癌、胃食道癌、頭頸部癌、去勢抵抗性前立腺癌)による売上高は100億ドルに到達する可能性があり、それはまさに、M4/M1受容体作動薬に続き、巨額のライセンス契約が見込める主力製品と言えるのではないでしょうか。

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