そーせいグループ(そーせい)の代表的な開発品といえばムスカリン(M4/M1)受容体作動薬を思い浮かべるのではないでしょうか。
ムスカリン(M4/M1)受容体作動薬に関して、そーせいはNeurocrine社との間で巨額のライセンス契約(契約一時金:1億ドル、最大26億ドルの開発・販売マイルストン、販売ロイヤリティ)を2021年11月に締結しました。
そーせいが前途巨額の契約締結に至った理由は、同作動薬が統合失調症や認知症など、複数の適応症に対してブロックバスターとなり得る可能性を秘めているからでしょう。
その他、そーせいはPfizer社やGenentech社、武田薬品工業社との間で複数の適応症に対するライセンス契約も結んでおり、10年後の承認を見据えたパイプラインは十分に備えていると言えます。
一方、そーせいはムスカリン受容体作動薬の導出によって、短期的に多額の契約一時金を得られる開発品が欠如することになったもの事実です。
同作動薬の契約締結以降に株価が軟調であったのは、このことが一つの要因であると考えられます。
そのため、そーせいには短期的な売上計上が見込める開発品の登場が待ち望まれていました。
そして、英国王立癌研究基金(Cancer Research UK)との共同開発によって臨床試験へと進むことが決定したEP4拮抗薬「HTL0039732」が、その欠如した穴を埋める開発品になるでしょう。
その理由は、EP4拮抗薬が癌免疫に関わる様々な細胞の働きを円滑にさせる効果が期待されるからです。
癌細胞は免疫を回避する能力を有しており、代表的な例ではPD-L1発現によるT細胞の活動抑制が上げられます。
その他、癌細胞は免疫回避のためPGE2を産生し、癌細胞を攻撃する殺傷性T細胞やNK細胞などの抗腫瘍免疫の抑制や、免疫抑制に関わる制御性T細胞やM2マクロファージなどを活性化させます。
このプロセスは癌細胞から産生されたPGE2と、各細胞に発現するEP4受容体が結びつくことで開始されるため、例えばEP4受容体に蓋をしてしまえば上記プロセスの発動を回避(癌細胞の免疫回避能を阻害)できます。
そして、そーせいのEP4拮抗薬HTL0039732はこの作用を実現するための製品です。
EP4拮抗薬の特徴は幅広い癌免疫系に作用することです。
抗PD-1抗体(オプジーボ/キイトルーダなど)や抗PD-L1抗体(テセントリク/バベンチオなど)が抗腫瘍免疫である殺傷性T細胞の活性化を目的としているのに対し、EP4拮抗薬では前途した通り抗腫瘍免疫や免疫抑制に関わる幅広い細胞に対し、正常な免疫反応を促すことを目的としています。
続いて、EP4拮抗薬の主な用途としては、そーせいが言及する通り、マイクロサテライト安定性(MSS)大腸癌、胃食道癌、頭頸部癌などの、抗PD-1/PD-L1抗体が効力を発揮し難い癌を適応とすることが考えられますが、それ以外にも前記特徴故、抗PD-1/PD-L1抗体の増強剤として用いられる可能性も高いです。
EP4拮抗薬を抗PD-1/PD-L1抗体の増強剤とする活用法は、オプジーボの生みの親である小野薬品工業社が既に検討しており、EP4拮抗薬「ONO-4578」の開発を進めています。
現時点でそーせいがHTL0039732を抗PD-1/PD-L1抗体との併用による開発を行うかは不明ですが、癌を適応とする後期試験では数千人の被験者登録が必要であり、治験費用が高額になることや、企業買収に資金を活用すると公言していることもあり、どこかしらのタイミングで導出することが予想され、その際、抗PD-1/PD-L1抗体の製品を持つ企業が獲得に乗り出すと考えられます、
先に上げたオプジーボはBristol-Myers Squibb社と小野薬品工業社の共同ライセンスの製品であるため、小野薬品工業社のONO-4578が優先的に用いられるでしょう。
そのため、ONO-4578の開発が暗礁に乗り上げた場合に限り、HTL0039732の獲得を検討するのではないでしょうか。
オプジーボの兄弟と言えるキイトルーダを持つMSD社はEP4拮抗薬を保持していないため、HTL0039732の獲得に乗り出す候補の一つと言えます。
また、抗PD-L1抗体の製品を所有する、中外製薬社(製品名:テセントリク)、Merck社/Pfizer社(同:バベンチオ)、AstraZeneca社(同:イミフィンジ)などもHTL0039732に関心を寄せると思われます。