そーせい|癌に対する抗PD-1/PD-L1抗体の弱点とEP4拮抗薬「HTL0039732」の適応患者数と売上高の推定(大腸癌・胃癌編)


EP4拮抗薬に関するコチラの記事「そーせい|M4/M1受容体作動薬に次ぐEP4拮抗薬の大いなる可能性(効能メカニズムと導出先候補)」では、そーせいグループ(そーせい)の事業戦略上の弱点や、その弱点を改善する開発品がEP4拮抗薬「HTL0039732」であること、さらに、抗PD-1/PD-L1抗体との関係性や活用性や導出先候補について解説・考察しました。

同記事に続く本記事では、HTL0039732の販売による売上高を推定し、同開発品を評価する上での期待値を提示したいと考えております。

そして、HTL0039732の承認後の売上高は、適応症の数によって異なり、EP4拮抗薬の特性(癌細胞による抗腫瘍免疫の抑制阻害や、免疫抑制細胞の活性化阻害)では幅広い癌に対して効果が期待されます。

なかでも、そーせいが「がん免疫療法薬候補の臨床試験実施に関するCancer Research UKとの契約締結のお知らせ」中に提示した、マイクロサテライト安定性(MSS)大腸癌、胃食道癌、頭頸部癌、去勢抵抗性前立腺癌では、抗PD-1/PD-L1抗体による免疫療法の効果が限定的であることから、初期の段階では同適応症に狙いを絞って開発が進められると予想されます。




こういった背景を踏まえた上で、抗PD-1/PD-L1抗体との比較から、前途4種類の癌に対するHTL0039732が選択される理由と、HTL0039732が承認された場合の年間売上高の推定を行いたいと思います。

まず、癌の治療薬に関しては、一種類の治療薬において複数の適応症に対して承認を得ることが多く、抗PD-1/PD-L1抗体においても、MSD社の「キイトルーダ」やBristol-Myers Squibb(BMS)社の「オプジーボ」が複数の癌での承認を得ています。

そのため、単一癌に対する製品売上高のデータを得ることが難しく、今回はRoche社の抗VEGF抗体「アバスチン」を参考にさせて頂きます。

アバスチンは2004年2月に転移性大腸癌治療薬として承認され、2006年10月に肺癌の適応が承認されるまでに、世界中でおおよそ45億ドルの売上を計上しました。

アバスチンによる大腸癌単一適応での最終年である2006年度の売上高は30億ドルという結果です。




大腸癌は部位別で3番目に多い癌であることから、現在はバイオシミラー(バイオ後発品)の登場によって売上は減少してしまったものの、同結果は大腸癌治療薬の売上規模の大きさを物語っています。

そして、そーせいがHTL0039732の投与対象として提示するMMS大腸癌は、大腸癌患者の80~85%を占めると推定されています。

MMS大腸癌はマイクロサテライト不安定性(MMI)大腸癌に対して抗原やPD-L1の発現量が少なく、それ故に抗PD-1/PD-L1抗体が効きにくいとされています。

一方、MMI大腸癌ではその性質からT細胞の認識を受けやすいため、抗PD-1/PD-L1抗体が効力を発揮します。

アバスチンの作用は抗PD-1/PD-L1抗体とは異なり、血管新生の抑制や腫瘍の増殖や転移を抑制することのため、変異を伴わない大腸癌においてはMMS/MMIは問いません。




そのため、アバスチンの売上高を参考に大腸癌を適応とするHTL0039732の売上高を推定する場合、その額に80~85%を乗じたおおよそ25億ドルが目安となります。

続いては、胃癌の適応についてです。

胃癌に対しても抗PD-1/PD-L1抗体が適応となっておりますが、初期の適応は三次治療での投与に対してでした。

その後、日本において抗PD-1抗体「オプジーボ」が一次治療でも承認を取得し、話題にも上がりましたが、その効果は限定的と言わざるを得ません。

この点に関しては、癌細胞へ浸潤した殺傷性T細胞と制御性T細におけるPD-1発現の数が問題となっています。

T細胞の免疫反応による癌殺傷は、癌細胞へ浸潤した殺傷性T細胞と制御性T細におけるPD-1発現の数が関わっていると考えられ、抗PD-1/PD-L1抗体による治療効果は、殺傷性T細胞のPD-1発現が制御性T細のPD-1発現を上回っている状況下において発揮される傾向があります。

そして、肺癌などの抗PD-1/PD-L1抗体がよく効く癌では、おおよそ半々の割合で殺傷性T細胞のPD-1発現と制御性T細のPD-1発現の偏りが見られますが、胃癌では制御性T細のPD-1発現が上回る割合が高く、胃癌患者の約75%では抗PD-1抗体が効きにくい状態にあります。




そのような背景があり、胃癌に対する抗PD-1/PD-L1抗体の投与は三次治療において承認されていました。

胃癌の再発率を探った中国での1,300人を対象とした研究では、同再発率は60%とされています。

世界の新規胃癌患者数は大腸癌の約半数の年間1,000万人と推定されいることから、再発患者数は600万人となり、そのうち75%の450万人が抗PD-1/PD-L1抗体が効きにくい患者と推定されます。

そのため、胃癌に対するHTL003973の適応患者数は450万人と導き出されます。

アバスチンの大腸癌単一適応での売上高30億ドル(2006年度)からHTL003973の売上高を推定すると、胃癌新規患者数=大腸癌新規患者数の50%、再発率60%、抗PD-1/PD-L1抗体が効きにくい患者(PD-1発現:殺傷性T細胞>制御性T細)の率75%とした場合、胃癌を適応とするHTL003973の売上高は6.75億ドルとなりました。

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