Delta−Fly Pharmaは米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会において、EGFR(上皮成長因子受容体)変異の非小細胞肺癌患者(ステージ3/4または術後再発)に対する「DFP-14323」(アファチニブとの併用)の有効性についてポスタープレゼンテーションを行いました。
これまで、DFP-14323の有効性は無増悪生存期間(PFS)の中央値で20.6ヶ月とされていましたが、今回のASCO年次総会での発表では最終報告としてPFSが23.0ヶ月まで延長され、同疾患の標準治療として投与されているAstraZeneca社の第3世代EGFR阻害薬タグリッソ(PFS:18.9ヶ月)に対して、競争力の高い結果を提示しました。
タグリッソは日本国内で1,000億円を超える売上(2021年度)を上げていることからも、DFP-14323のポテンシャルの高さはDelta−Fly Pharmaの株主はもちろんのこと、創薬株に関わる投資家にとっても認めざるを得ないものです。
では、タグリッソに対するDFP-14323(EGFR阻害薬「アファチニブ」との併用)の高い有効性が、どの様な理由で得られたのかを紐解いていきます。
現在の癌治療の主流は、「癌の増殖を抑制すること」と「癌への攻撃を活性化させること」をターゲットとしています。
そして、これまでのEGFR変異の非小細胞肺癌に対しては「癌の増殖を抑制すること」が主な治療法であり、そのための治療薬がタグリッソを含むEGFR阻害薬です。
前記した通り、タグリッソは第3世代のEGFR阻害薬ですが、DFP-14323と併用投与されたアファチニブは第2世代のEGFR阻害薬です。
EGFR阻害薬は細胞への栄養供給を阻害する作用があり、第2世代に比べて第3世代のタグリッソは多数のEGFR変異に効果を発揮します。
結果として、タグリッソがPFS18.9ヶ月、アファチニブがPFS11.1ヶ月でとなり、タグリッソがアファチニブに対してPFSを約8ヶ月延長させることが認められました。
そこで、Delta−Fly Pharmaは同疾患の治療薬開発にあたり、アファチニブの「癌増殖抑制作用」に加えて、「癌への攻撃を活性化させる作用」に活路を見出しました。
その役割を担うDFP-14323は、承認済みの急性非リンパ性白血病治療薬「ウベニメクス」から派生した製品です。
ウベニメクスはNK(ナチュラルキラー)細胞などの免疫細胞を活性化させる作用がありますが、そのパワーは非力で、単独での投与はされず、他の抗癌剤との併用が一般的な使われ方です。
しかしながら、パワーが非力であるが故か、抗癌剤としての安全性が非常に高いことが特徴です。
Delta−Fly Pharmaはその特徴に目をつけたと考えられます。
AstraZeneca社はタグリッソの「癌増殖抑制作用」によってPFS18.9ヶ月を達成しましたが、タグリッソに「癌への攻撃を活性化させる作用」を加えることで、さらなる有効性を探求しています。
そして、AstraZeneca社は同社の抗癌剤ポートフォリオの中から、抗免疫減衰作用を持つデュルバルマブ(抗PD-L1抗体)を選択し、タグリッソとの併用を検討しました。
しかし、副作用によって間質性肺疾患の進行リスクが高いことから、タグリッソとデュルバルマブの併用は見送られました。
原因はEGFR阻害薬と抗PD-L1抗体を含む免疫チェックポイント阻害剤には、重複する毒性があるからです。
故に、EGFR阻害薬と併用で用いる医薬品には高い安全性が求められており、Delta−Fly Pharmaはその条件を満たす抗癌剤のウベニメクスに注目し、DFP-14323をEGFR変異非小細胞肺癌に対して開発を進めたと思われます。
現状では、同疾患に対して「癌の増殖を抑制」と「癌への攻撃を活性化」を両立する治療薬の開発において、Delta−Fly Pharmaが一歩リードしています。
そのため、タグリッソに続く治療薬が上市しない場合、DFP-14323は次の標準治療になり得る可能性を秘めており、ブロックバスターとして同疾患市場を席巻する期待が持たれます。
ただし、AstraZeneca社がMEK1/2阻害剤の「セルメチニブ」やc-MET阻害剤の「サボリチニブ」をタグリッソに併用し、二重三重の作用で癌増殖抑制効果を高め、PFSを延長させようと試みています。
日本ケミファ社と結んだDFP-14323の契約金が、期待から大きくかけ離れていたことからも分かる通り、同疾患市場においてはタグリッソを持つAstraZeneca社が圧倒的有利な立場にいます。
故に、Delta−Fly Pharmaに求められることはDFP-14323の開発速度を上げ、上市時期を早め、AstraZeneca社が手を拱いている間に可能な限り売上を手中に収めることです。
そのために、Delta−Fly Pharmaは不利とも取れるDFP-14323の導出契約を日本ケミファ社と締結したと思われます。