ペプチドリーム|Genentech社のパイプラインから読み解くc-MET作動薬の適応症と売上規模


2022年5月23日、ペプチドリームはRoche傘下の米国Genentech社との間で、c-MET作動薬の共同開発に関する契約を締結したことを報告しました。

c-METは受容体型チロシンキナーゼ*であり、細胞外に露出している受容体が増殖因子**と結合することで、細胞の分化や増殖、免疫反応などを活性化させます。

*受容体型チロシンキナーゼ:細胞膜を1回貫通している棒状の酵素。細胞外に受容体を持つ。

**増殖因子:細胞の増殖や分化を促進するタンパク質。受容体型チロシンキナーゼのスイッチをON(オン)にする働きを持つ。

c-METをターゲットとした治療薬の開発は長い歴史があり、そのメカニズム上、c-MET拮抗薬(細胞の分化や増殖、免疫反応などを不活化)は癌治療に用いられ、c-MET作動薬(細胞の分化や増殖、免疫反応などを活性化)は神経変性疾患や肝疾患の治療に用いられてきました。

そして、今回のc-MET作動薬は増殖因子HGFと同等の働きを持つ人工ペプチド「PG-001」に何らかの手が加えられた(加えられる)化合物と考えられます。

HGF代替ペプチド「PG-001」(参照:ペプチグロース ホームページ)




c-MET作動薬を利用した細胞医薬品への発展の可能性もありますが、Genentech社はRocheグループの中でも売上高を獲得する役目を担っていることや、細胞医薬品の市場規模の小ささ、そして、Roche社が次世代の治療法として細胞医薬品よりも遺伝子治療薬の開発に力を入れている傾向がみられることから、その可能性は低いと思われます。

ペプチドリームとGenentech社による同化合物の開発は、c-MET作動薬であることから、神経変性疾患や肝疾患を適応とする方向に進みそうです。

さらに付け加えると、Genentech社は市場規模の大きさにより、特に癌と神経変性疾患の治療薬開発に注力していることから、前記考慮すると、同化合物は神経変性疾患治療薬の開発に用いられそうです。

Genentech社の精神疾患領域パイプラインの中心はアルツハイマー病であるのは周知の事実ですが、治療メカニズムはアルツハイマー病の原因物質と考えられているアミロイドβ、または、タウ・タンパク質に対する抗体治療です。

抗体治療は病状を悪化させないためのものであり、特に神経変性疾患においては変性部位の修復や再生に関わりを持ちません。

これは、世間を賑わせたBiogen社のアルツハイマー病治療薬アデュカヌマブ(抗アミロイドβ抗体)にも同じことが言え、同治療薬はFDAからの承認を得ておりますが、その治療効果は世間から認められることはありませんでした。




そのため、アルツハイマー病を治療する上では、アミロイドβやタウ・タンパク質を除去することも必要だとは思いますが、変性部位の修復や再生を促す必要があります。

そして、近年の研究では、c-METを作動させることで脳神経部位の神経細胞の修復・再生、アミロイドβの除去、炎症の沈静などの作用が発見されており、アルツハイマー病やその他神経変性疾患に対する治療効果が期待されています。

故に、Genentech社の開発領域の整合性が取れ、神経変性疾患に対する同社治療薬を補完する相性の良さ、さらには、高齢化社会による認知症疾患の市場規模が大きくなると予想されることから、神経変性疾患の中でも、同c-MET作動薬はアルツハイマー病や統合失調症などの売上高が大きく見込める疾患を対象とした開発品になると推測されます。

さらに、同疾患を適応とする治療薬の売上高に関しては、グローバルに認められたアルツハイマー病の新薬は存在しないものの、Biogen社はアデュカヌマブの年間売上高を100億ドル規模と見込んでいました。

また、エーザイ社によるアルツハイマー治療薬アリセプトは、特許切れとなる前のピーク売上高(2010年)が当時のレートで3,200億円と巨額でした。

統合失調症治療薬に関しては、大日本住友製薬のラツーダが2,000億円規模の年間売上高を、大塚ホールディングスのエビリファイメンテナが1,000億円規模の同売上高を計上しています。

ともすると、同c-MET作動薬のパイプライン価値は非常に高く、また、共同開発ということで販売ロイヤリティも大きな割合(例えば、10%前半などではなく、30%前後)となるでしょう。

ペプチドリームの主力パイプラインは癌免疫療法のPD-1/PD-L1阻害剤で間違いありませんが、アルツハイマー病や統合失調症の治療薬としてc-MET作動薬が新たなパイプラインとして加えられる日も遠くないと見込まれます。




 

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