ヘリオスは5月20日に発表した「TREASURE試験の速報値に関するお知らせ-体性幹細胞再生医薬品HLCM051の日本における脳梗塞急性期を対象とする治験-」において、主力製品「HLCM051」による2本のパイプラインの1つである急性期脳梗塞フェーズ2/3試験(TREASURE試験)の結果(速報値)を発表しました。
そして、同発表では主要評価項目である365日後のExcellent Outcome(mRS*≦1、NIHSS**≦1、BI***≧95)の変化量では統計学的な有意差が認められなかったものの、副次評価項目での中でも重要度の高い365日後のGlobal Recovery(mRS≦2、NIHSS75%以上改善、BI≧95)の変化量では同有意差が認められました。
*mRS(概括障害度):障害レベルを0【症候がない】、1【症候があっても明らかな障害はない】、2【軽度の障害】、3【中等度の障害】、4【中等度から重度の障害】、5【重度の障害】、6【死亡】のグレードで判定される。数字が低い方が障害の度合いが低い。
**NIHSS(神経症状障害度):脳梗塞、脳出血などの神経学的重症度を評価する。「意識」・「運動」・「感覚」・「発語」などの全11項目を判定表に従って評価し、点数化する。点数は0~42点の範囲にあり、点数が高いほど重症となる。
***BI(日常生活活動指標):基本的日常生活動作10項目について点数をつけ、合計得点で評価される。点数は0~100点の範囲にあり、点数が低いほど介助の必要が高まる。
この様に、主要評価項目では有効性が認められなかったものの、ヘリオスは日本国内において同結果による承認申請を推し進める意向のようです。
その背景には、急性期脳梗塞患者に対する臨床的に意義のある治療薬(ここでは身体的機能障害の改善)が存在せず、HLCM051と同様に二次障害(神経細胞障害の増悪)を軽減する承認製品エダラボンが、神経症候の改善は認められるものの、身体的機能障害の改善には効果が認められないということも上げられます。
さらに、ヘリオスは被験者の年齢による回復の遅れが改善効果の遅れに繋がったと考えており、HLCM051の導入元であるAthersys社が行い、有効性が認められたフェーズ2試験の患者に比べ、TREASURE試験では15歳高齢であったことが有効性を示せなかった原因と主張しています。
そのため、審査を行うPMDA(医薬品医療機器総合機構)はヘリオスに対して、いくつかの課題を提示することになると思われます。
Athersys社が現在行っているフェーズ3試験(MASTERS-2)の試験結果を求めることも想定されます。
その場合、患者登録完了が2022年9月と予定されていることから、解析完了は早くても第4四半期中になるでしょう。
また、HLCM051が再生医療等製品に該当することから、評価項目の融通、例えば、Excellent OutcomeではなくGlobal Recoveryを指標として採用したり、複合的な両指標ではなく、障害レベルに絞ったmRSを指標として容認といった形が考えられます。
その他、ヘリオスが主張するような年齢が治療効果を減衰させる要因となるのであれば、年齢に上限を設けることも考えられますが、70歳以上にも多くの急性期脳梗塞患者が存在するため、年齢に上限を設けることをPMDAが容認するとは思えません。
以上を踏まえ、急性期脳梗塞を適応とするHLCM051の承認の可能性は十分に残されており、Global Recoveryで有効性を示したことを考慮すると、その可能性はむしろ高いと見込んでいます。
「ヘリオス|PMDAの審査の前提を見誤る形に。HLCM051の解析方法が論点。」でも述べたとおり、もう一方のHLCM051パイプラインであるARDSの適応では承認申請までに想定以上の時間が掛かる見込みです。
そして、急性期脳梗塞の適応についても想定より申請までに時間を要すると想定され、その日数は一年間程見込むべきと思われます。
主要評価項目での有効性が示せなかったということで、株価は下落する可能性がありますが、過度な下落は今回の結果に見合った評価ではないため、その場合はバリュー投資の良いタイミングになるでしょう。
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