シンバイオ製薬|トレアキシン点滴静注液(RTD製剤)のジェネリック医薬品製造会社による特許侵害に関わる注目点


シンバイオ製薬は2022年2月25日に「後発医薬品の製造販売承認に対する当社対応について」と題し、トレアキシン(一般名:ベンダムスチン)点滴静注液(RTD製剤)のジェネリック医薬品の製造販売承認を得た4社(ファイザー社、Meiji Seikaファルマ社、コーアイセイ社、東和薬品社)に対し、特許権の侵害の懸念について文書によって通告したことを発表しました。

該当特許は同RTD製剤のライセンス元であるEagle Pharmaceuticals社が保有する特許第6133943号(請求範囲の概要は下記)であると考えられます。

 

【特許第6133943号の請求範囲の概要】

・組成物(トレアキシンRTD製剤)の構成

トレアキシンRTD製剤はベンダムスチン(またはその製薬上許容される塩)、グリコール(ポリエチレングリコール、および、プロピレングリコール)、抗酸化剤で構成される組成物です。

・ベンダムスチン

ベンダムスチン濃度は20mg/mL~60mg/mL、または、25mg/mL~50mg/mLです。

・グリコール

プロピレングリコールの量は同組成物の5~10%、ポリエチレングリコールとプロピレングリコールとの比率は、95:5、85:15、80:20、75:25です。

・抗酸化剤

抗酸化剤は、チオグリセロール、モノチオグリセロール、リポ酸、没食子酸プロピル、メチオニン、システイン、メタ重亜硫酸塩、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、フェノール含有芳香族、および、脂肪族化合物、ジヒドロリポ酸から選択されます。

抗酸化剤の安定化量は2.5mg/mL~35mg/mLです。

・貯蔵後の変化

5度で12ヶ月間貯蔵した後に、0.38%以下の総不純物を有します。

25度で1ヶ月間貯蔵した後に、0.43%以下の総不純物を有するか、25度で3か月間貯蔵した後に、0.73%以下の総不純物を有するか、または、25度の温度で6ヶ月間貯蔵した後に1.38%以下の総不純物を有します。




医薬品特許はその売上規模が大きいことからも、特許戦略を入念に構築し、競合他社からの特許侵害を限りなく防ごうとすることが常です。

医薬品特許は物質特許、用途特許、製剤・製造特許の3つに大きく区分され、中でも本件が該当する製剤・製造特許は特許侵害に合うケースが最も見受けられます。

そして、本件(特許第6133943号)を侵害する上で狙いとなる箇所はいくつもあります。

例えばベンダムスチンの濃度であり、プロピレングリコールの量、ポリエチレングリコールとプロピレングリコールとの比率、抗酸化剤の安定化量、貯蔵後の変化量などが上げられます。

その他、本件の特許無効を訴えることも可能であり、売上規模が100億円にも迫ろうかというトレアキシンRTD製剤は特許侵害が避けられませんでした。

また、トレアキシンRTD/RI(急速静注)製剤の特許侵害は、先行してEagle社が籍を置く米国で起こりましたが、結果は幸いなことに、Eagle社(厳密にはライセンス付与されたTeva社)の勝訴となり、被告であるMylan社とApotex社は特許が失効するまでの10年以上の期間において同製品を発売することが出来なくなりました。

ここで、日本国内で過去に起こった医薬品の製剤・製造特許侵害の実例を紹介します。

 

【デビオファーム社 vs 日本化薬社】

・該当特許:特許第4430229号

・発明の名称:オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用

デビオファーム社が保有する抗癌剤エルプラット点滴剤(一般名:オキサリプラチン)に関する製剤・製造特許を侵害したとして、日本化薬社を被告とする訴訟が起きました。

日本化薬社が突いた箇所はエルプラット点滴剤の製剤においてオキサリプラチンにシュウ酸が付加されている点であり、日本化薬社のオキサリプラチン製剤ではシュウ酸の付加はされておらず、代わりにシュウ酸を水溶液中に存在させることで特許侵害を回避しようと試みました。

結果は日本化薬社の勝訴となり、同社はオキサリプラチン製剤の販売が行え、加えてデビオファーム社の保有する同特許は請求範囲の縮小を余儀なくされました。




【東レ社 vs 沢井製薬社・扶桑薬品工業社】

・該当特許:特許第3531170号

・発明の名称:止痒剤

東レ社が保有するそう痒症改善剤レミッチ(一般名:ナルフラフィン)に関する用途特許を侵害したとして、沢井製薬社と扶桑薬品工業社を被告とする訴訟が起きました。

同訴訟は用途特許に対するものですが、同特許の請求範囲に製剤に関する請求があり、その点が論争の一つとなりました。

レミッチはナルフラフィン(フリー体)を有効成分とするものですが、被告のナルフラフィン剤は有効成分をナルフラフィン(フリー体)の酸付加塩であるナルフラフィン塩酸塩を有効成分としています。

本来であれば製剤の構成においても有効成分の結晶形を広くカバーする請求を行うものですが、本件ではナルフラフィン(フリー体)のみを請求の範囲としたことが被告に狙われました。

解釈の相違によるもので特許保護には問題なさそうな件ですが、東京地裁では被告の主張が認められました。

しかしながら、控訴した知財高裁では東レの主張が認められる公算が高く、どのような結果となるのか注目が集まります。

 

以上のように、医薬品特許は隙きあらば侵害されるものです。

特に、売上規模の大きな医薬品であれば尚更です。

トレアキシン(RTD製剤)の製剤特許は4社からも侵害を受けているため、おそらく特許請求において狙われる箇所が多かったり、大きな穴があったと思われます。

しかしながら、それらはトレアキシンに対する期待の高さの表れでもありますので、同問題はまだ始まったばかりで先は長いですが、シンバイオはこの危機を乗り越えられれば大きな売上高を見込めるでしょう。

 

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